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【ゼリア新薬のニュースから】「ストレス型新入社員研修」を生む研修提供側の「2つの歪み」とは?

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  1. 「ストレス型新入社員研修」とは何か?
  2. 「ビシッとした新人」を望む人事担当者
  3. 一つ目の歪みは、研修提供側の「○○○○」。
  4. 二つ目の歪みは、研修提供側の「○○○さ」。
  5. 実は「よく分かっている」新人たち ~生声から~

2013年、「ヘパリーゼ」などで有名なゼリア新薬の男性社員が新入社員研修受講の結果として自殺に追い込まれ労災に認定

その男性の両親が、ゼリア新薬と研修会社(ビジネスグランドワークス)を提訴したことが、8月8日のYahoo!ニュースに掲載され、世間を賑わせている。

事実は今後法廷で明らかになっていくため、私が確定されていない事実をもとに特定の企業や研修会社について論じるのは不適切だろう。

よって、ここでは人材開発や企業変革に携わるプロの立場から、あくまでも一般論として「ストレス型新入社員研修」に関する見解を述べたい。

●「ストレス型新入社員研修」とは何か?

ちなみに「ストレス型新入社員研修」とは弊社の造語だが、要は「研修講師が新人に過度なストレスを与えることで鍛えるタイプの新入社員研修のこと」だ。

具体的には・・・
「受講者が出したアウトプットに対して、講師が不条理なダメ出しをしまくる」、「講師の指示に従わないと怒鳴る」、「受講者の気持ちを無視して無理やり何かの行為を強いる」などの研修をいう。「駅前で大声を出させる」などの超古典的なアプローチもこれに含まれる。



一見すると「(ネガティブな意味での)軍隊教育」のようにも見えるが、なぜこのような手法が生き残っているのか?

●「ビシッとした新人にしてほしい」と研修提供会社に要望する人事


新入社員研修の目的はいわずもがな、「配属先での活躍を後押しすること」にある。「学生から社会人へのトランジション(転換)をスムーズにすること」といってもいいだろう。

確かに、学費を支払い学校に通っている学生と、給料をもらう代わりに仕事の責任を負う社会人では、求められるマインドが違う。

よって、新人に「ビジネスの厳しさ」を理解・実感してもらうのは大事だ。

私たちも人事の方とお話しする中で「社会人の厳しさを教えてほしい」と言われることがあるが、それはもっともなことだと思う。

しかし、ときに「ビシッとした新人にしてほしいんです」と言われることもある。

なお、このようなオーダーをする人事は多くの場合、以下のように考えていることが多い。
(人事に限らず、「ビシッとさせましょう」という研修会社も同様)

「ビシッとした新人」イコール、「声はハキハキ、行動は一糸乱れずキビキビした新人」。



もちろん社会人である以上、一定のビジネスマナーを身につけ「ビジネスの関係者に愛される」必要がある。ことに最初の第一印象で「ちゃんとしてそう。仕事を任せても大丈夫そうだな」と上司や先輩に思ってもらえるのは大事だ。

ただしその度を超えて、「常に上からの言うことに従順で」「文句を言わずに指示を遂行する」新人であってほしいと期待している人事も多い。

このようなオーダーに対しては弊社では、以下の問いをお客様にさせていただくことになる。
-「そもそも、ビシッとした新人とはどんな新人のことを指すのか?」
-「そのビシッとした新人は、はたして配属先で活躍する新人なのか?」

ここを間違えると目的(配属先での活躍の後押し)が達成できないからだ。

また、新人に対して、過度に「ビシッと」させることを望む一方で、「出る杭になってほしい」とか「若い発想力を活かしてどんどん感じた違和感は発信してほしい」とか「会社を変えていってほしい」と新人に期待をもっている場合もある。

ここに矛盾はないだろうか?

●「一つ目の歪み」は、研修提供側の「自己保身」。


なぜこのように「ビシッとした分かりやすい姿」こだわってしまう人事がいるのだろうか?

そのような人事は以下のことで頭がいっぱいになっている。
-「経営者や各部門長などの上位者にその成果をアピールしたい」
-「配属先の現場から、配属後にあれこれと文句を言われたくない」

もちろん真剣に仕事をする以上、その成果を上位者に認めてもらいたいし、サービスの提供先(この場合は配属先の現場)に迷惑をかけたくないのはよくわかる。

しかし、分かりやすい成果「ばかりに」惑わされてはいないだろうか?

(ある意味、経営者や各部門長などのトップマネジメントの認知賞賛の視点がそのような不幸な人事担当者をつくっているともいえる)

●「厳しく」の意味をはき違えてしまう研修の提供側


また、新入社員研修の商談で、「厳しくお願いします」というオーダーもよく聞かれる。



前述したとおり、新人に「ビジネスの厳しさを理解・実感してもらうこと」は、大事。

ただし「ビジネスの厳しさを理解・実感してもらう(研修のねらい)」ために、「新人への関わり方(手段)」を「厳しく」する必要があるかどうかは考える必要がある。

そう、「新人に厳しいアプローチをとる」ことが、「ビジネスの厳しさを実感してもらうこと」に本当につながるかどうか。
「新人に厳しくする」ことが「学生から社会人へのマインド転換」に本当に効果的かどうか。

ここをはき違えているケースが多いのだ。

●「二つ目の歪み」は「研修提供側の未成熟さ」。


集合研修の中でも、特に新人研修は、研修提供側と受講者である新人側に上下関係が生まれやすい。
というのも、新人研修では「(多くの場合)社会人経験がない新人に、社会というものを教える」という前提があるため、人事や研修講師と新人との間に圧倒的なもちうる情報の差があるからだ。

分かりやすい例として、なんと新人のことを「生徒」と表現し、担当する人事のことを「担任」と表現している会社もある。社会人としてのマインドセットを伝えるはずが、「学校と同じ枠組み」でそれを行うのはいかがなものか・・・?

ここから起きがちなのが、「新人に対して優越感を得たい」「自分のストレス解消をしたい」「カタルシスを得たい」がために、新人に対して過度に「上から」のアプローチに走ってしまう、ということ。
ここから前述したような「講師(や人事担当者)から新人への不条理の押しつけ」が起こってしまう場合がある。

こんな話を聞いたこともある。
研修提供会社による人事への研修終了後の報告会で「今年は○人泣かせましたよ」「さすがですね~。やはり厳しい○○さんに研修をお願いしてよかったです」の会話・・・。

これが大事な新人の育成を任された大人の会話といえるだろうか?

また、新人研修は、多かれ少なかれコンテンツに「ビジネスマナー」(の要素)が入る。そして、ビジネスマナーは「知らないからできない」新人が「知っているからできる」新人になるため「目に見える変化が大きい」という特徴がある。

つまり研修提供側にとっては「分かりやすく手ごたえを得やすい」のだ。

しかし、とても大事なことを見失っていないか?

「人はそう簡単には変わらない」ということを。

これは、マネジメント経験や、人の親になった経験がある方はイメージがつきやすいと思う。

何も知らない新人に対して、自分たちにとって当たり前のことを教えながらカタルシスを得て、「変わった!」と思う幼さや驕り。

この歪みが不幸を生んでしまう。



●実は「よく分かっている」新人たち ~新人の生声から~

では、被害者になりがちな新人たちは何を感じているのだろうか?

彼ら彼女たちに直接話を聞いてみると、こんな声が出てくる。

-「前に受けた研修がそうだったので、研修講師はものすごい怖い感じで接してくるのだとビクビクしていました」
-「グループでどういうアウトプットを出しても、最初に出すときはどのみち講師にコテンパンにされるものだと思っていました」
-「研修会社が間を開けて2回研修を実施するプログラムがあったのですが、2回目の研修の前日は"あの講師が来るから明日だけはキッチリした姿を見せよう"とみんな言っていましたよ。それ以外は前のまま(変わらず)でしたよ」


夢と希望を抱いて入社した新人たちがかわいそうだ。

また、大多数である新人の育成に志と愛情をもち真剣に向かっている人事の方々や研修会社の方々が、ひとくくりにして誤解されるのはとても残念だ。

誰も幸せにしない不条理なだけの「ストレス型新人研修」は撲滅したいと、切に思う。

研修提供会社はプロとしてのスタンスと技術を磨き続けなければならない

最後に、このニュースに関連してひとつ補足したいことがある。

ゼリア新薬の件では、研修講師が本人の「きつ音」を指摘したり「過去のいじめの体験」を明るみに出そうとしたりしたという。

誤解を恐れずにいうが、これだけをつかまえて「悪」と論じるのは適切ではない。

ときとして人が深い気づきを得たり、それをきっかけに「一皮むける」ために、現在の弱みを開示して受け入れたり、過去のつらい経験に向き合うことが必要な場合もあるからだ。

ただしその場合は、研修提供側に「この人たちの前でなら弱みを見せても大丈夫だ」という安全安心の場を作る技術が求められる。
そのうえで、本人が自分の意志でそれを「言いたい」「場に出したい」という気持ちにならないとマイナスにしかならないため、本人の心の機微を逃さずにとらえることが必要だ。

また、特に本人の幼少期の体験などに紐づく「心理的外傷(トラウマ)」については、今回のケースのように下手に扱うことで本人をいたずらに傷つけるリスクが大きいため、十分慎重になる必要がある。

蛇足になるが、弊社ビヨンドでは受講者の意志に寄りそいながら内省を深めてもらうことを大事にしている。そのために研修講師(ビヨンドでは"サポーター"と呼称する)は、「心理的安全の場を作る技術」や「認知心理学」の勉強会をたびたび行い、相互啓発に勤しんでいる。それだけプロとしての技量が必要な価値ある仕事だと思っている。


~「I'm OK. You're OK. So, We are OK!」そんな自他肯定感で満ち溢れた世界を創る~
株式会社ビヨンド 代表取締役社長
仁藤和良